いままで編集の仕事に携わってきて、これからのキャリアについて考えたとき、あらためて、編集ってなんだろうとふと思った。
狭義の編集…編集者の仕事はなにかと聞かれたとき、読者に有益な情報を伝えるため、文章を整えるだとか、あるいはライターさんからあがってきた原稿を検収するだとか、以下のような本に載っているような技術、そう答えるのだけど。
そうではなくてもっと広い意味での編集。なにかあたらしい気付きや有益な情報を世に提供するだとか、そういったもの。抽象的だけど、もっと広い意味での編集を意識して仕事しないと、はたらいている意味がないのでは。とまでは言い過ぎだけど、車輪の再発明みたいなことを日々行っているような間隔に陥ってしまうし、毒にも薬にもならないものをつくってしまうことになってしまう。
自分のなかで整理するのと、学び直して仕事をしたい、胸を張ってこれを私がつくりましたと言えるようなものをつくれるようにするように、また編集の指針を決めてそれに従ってつくっていきたいと思い、もう一度この本を読んでみた。
著書の菅付雅信さんは、雑誌『月刊カドカワ』『エクスファイア日本版』編集部を経て、『コンポジット』『エココロ』などの編集長を務めた、敏腕編集者。雑誌の編集にとどまらず、ウェブ、広告、展覧会も「編集」している。
そんな菅付雅信さんは、この著書のなかで編集の定義を「企画を立て、人を集め、モノをつくる」としている。
だとすると、今私が仕事としているウェブや書籍・雑誌の仕事の延長線に、そこで得た知見を活かして、あたらしいサービスを生み出すということも、編集にあたる。
日々の不満やちょっと不便なことは、グチグチいうより、どうすればいいのか、どのようなサービスやモノがあればそれが改善されるのかを考えるのは、楽しい。
今私がやってる編集の仕事…あたらしい企画を考えるとき、一番たのしい。その延長線上、もっと多くの人のためになることができるサービスづくりも楽しそうだな、いずれ挑戦してみたいなとぼんやりと思っていたので、つながりがあるようですこしうれしい。
話がそれてしまったけど、この本に書いてある、編集の歴史、企画について、編集の基本3要素「言葉・イメージ・デザイン」、紙だけにとどまらない現代の編集について。この4つを要約し、自身の血肉とする。
編集の歴史
歴史を振り返り、成り立ちを知ると、今私がなにをすべきかが見えてくる。
この本では、メディアはフローとストック、権威と参加、記録と創作といった3つの座標軸のなかで3次元に進化しているとまとめています。
人類最古の編集物は、メソポタミアの壁画。紀元前2900年ごろ。編集は、文明誕生と同時に生まれたもので、エジプトの壁画は、神と崇めていた太陽を中心に添えていて、当時の文明をよく表している。ただやみくもに書かれたものでなく、より効果的に伝えるために、デザイン、言葉が選びぬかれたことがわかる。
全世界でもっとも多く流通しているコンテンツ、それは聖書。毎年1億冊発行されており、驚異的な部数を誇る。今年のベストセラーなどは意識したけど、世界で一番というくくりでは全然想像もしなかった。当時は印刷技術がないので写本、版をつくらず手で書き写されたもの。
聖書…キリスト教社会の仕組みがよくわかる、全世界で5000万部売れた大ベストセラー『薔薇の名前』を観ると、教会は図書館や教会のような機能を持ち、教会のトップ・ローマ法王はキリスト教の世界を編集する権力の象徴でもあった。
日本最古の編集物は、紙でいうと古事記や日本書紀。日本書紀は国がつくった歴史書。
世界最古の恋愛について書かれたエッセイは、枕草子。清少納言が身の回りで起きた恋愛寝たを中心に描いたもの。
15世紀のなかばにグーテンベルクが、活版印刷を発明。あたらしいコンテンツを生み出すというのではなく、1点ものの聖書を普及させるためだった。ここから印刷技術が普及し、新聞、日本だと瓦版として普及した。
その後、メディアは進化の過程で、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、インターネットが誕生。一点ものの高級なメディアが大量複製・電波や電子となって流通するようになった。
メディアのなかでも、テレビやネットなど大量伝搬に向いていて即効性が高いフロー型と、
紙メディアである書籍や雑誌はアーカイブ性、資料性が高く希少性があり愛着があるストック型にわかれる。
また、メディアは、大新聞の社説など書き手が限られているの権威性、ネットやSNSなど誰でも参加できる参加性に分かれてくる。ただ、人は確固たる権威的な言葉や教養を求めるため、権威性と参加性のなかでそれぞれの立ち位置を求めて進化していくことになる。
報道系のメディア客観性や事実記録性、エンターテインメント、広告、ファッション雑誌、子供向けの本や映像作品で教育的な内容を娯楽的な演出で伝える「エディテインメント」と呼ばれる手法のメディア、創作と記録のミックス作品といえる。
企画
能動的な企画と受動的な企画
俗に言うクライアントワークが受動的な企画にあたる。クライアントワークだからといって、よいコンテンツにならないというわけではない。むしろコマーシャルなど、広告の歴史に名を刻み人の心をうごかす企画もある。
そういえば、広告についてのベストセラーも、この1点が大事だと書かれていて、おどろくほどシンプルだけど、納得感があった。
企画には目的がある
企画は、相手に何をどう魅力的に伝えるか。その目的を考えないと企画はぶれてしまう。
迷ったときは、この原点に立ち返る。
企画にはしばりがある
予算、スケジュール、スタッフなどの「しばり」がある。
予算はさまざまだけど、編集という仕事は基本、ライター・デザイナー・カメラマンなど複数のスタッフとの共同作業となる。
企画にはクライアントが関わる
クライアントとは、制作物に資金を提供してくれる人や集団。編集は個人表現ではなく、複数の人によって複数の人に届ける表現。個人の限界を認識したところから始まる表現だ、という定義に納得。この観点を意識していないと逆にいいものが作れないなと思った。
そして、よくあるクライアントとの意見の対立などで、資金提供源であるクライアントの意向をやむなく組んでしまいそうになるけど、あらためて、その編集物はいったい誰に向けてつくろうとしているのという視点に立ち戻り、おそれず意見することが「プロ」と呼べるのではないかと思った。もちろん、私のために楽することも違う。
企画は「ディストリビュート」される
流通を介すため、流通されやすい形が求められる。
企画のキーワード「新しい」「独占」「挑発」「再提案」「かけ算」
これらを意識しながら企画をつくるよう心がけ、また自分の経験をもって、「企画をつくるとき大切にしていること」を語れるようにしたい。
新しい
新しいを伝えるは企画の基本。
世の中の報道メディアはこの考え方を基本において作られているものの、報道と編集は重なる部分はあるものの、別もので、報道の基本は真実の伝達で、編集は情報による触発、主観性が求められる。
例えば雑誌の特集では「最新」という言葉がよく使われる。ためしにdマガジンで雑誌をざっと見てみると、けっこうあった。
提案
時代に対して提案するという姿勢。つい読者やクライアントの2者しか見えていないときがあるので、気をつけないと。
例:BRUTUSの『安藤忠雄があなたの家を立ててくれます。』(2000年12月11日)、『どうせなら日本人のいないリゾートへ』。心の底で思っていることをズバッと提案してくれている。
独占
「独占取材!」「本誌独占!」という見出し。取材対象を独占的に取材し、ライバル・メディアに先駆けて記事にするのも編集のひとつの手法。
挑発
マガジンハウスの『オリーブ』『アンアン』『GINZA』の編集長を歴任した伝説的編集者・淀川美代子さんのとくに有名な特集「セックスで、きれいになる。」(1991年5月3日号)。このあざといタイトルでとにかく売れた。一歩間違うと下品な冗談になるギリギリ挑発的なラインを攻めたセンスあるタイトル。
再提案
知らないことを伝えることだけが企画ではない。みんなが知っていることを捉え直すこと。ひと味違う視点、違うテイストを与えることで企画になる。
古くは小学館が1982年に出した『日本国憲法』。掲載している文章は日本国憲法の文章だけだが、ビジュアルに力を入れており、半分写真集のようにテキストと写真が交互に並んでいる美しいデザインの本で、100万部の売上を誇った。
『超訳 ニーチェの言葉』などの超訳シリーズも、難解な言葉を大胆に抜粋しわかりやすく今の読者にプレゼンした再提案企画の好例。
かけ算
あたらしいものと古いもの、海外と日本、おしゃれなものとダサいもの、高尚なものと低俗なもの、など組み合わせしてかけ算していくと、あたらしいものが生まれることがよくある。いわゆる変化球をつくる。
例:『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』
経済学とアニメと青春小説をかけた、かけ算の成功例。
優れた企画は、企画を感じさせず、世界観を感じさせる
料理と同じで良い素材はストレートにあまりひねらずにそのまま伝える。など。
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編集の基本3要素「言葉・イメージ・デザイン」
言葉
メディアの言葉は、読み飛ばしされることが前提。
形容詞を使うと言葉が腐りやすい…不要なものを極力削ぎ落とす
雑誌のタイトルはフックの名人芸…雑誌『ミーツ』、編集部の様子が伝わってくる/『BRUTUS』/『週刊文春』『週刊新潮』
タイトルの付け方
①身近度:タイトルに使われている表現が自分にとって身近な表現かどうか
②中身度:タイトルが本の中身を表現しているかどうか
③対話度:タイトルを通して読者と対話が出来ているか。賛否両論問わず意見がもらえるか
④衝撃度:店頭でスルーされないようなインパクトを求めるということ
これら4つのバランスを意識してつける。
誰かに届く言葉は、誰かには全く届かない…読者層
文章力は読書量に比例
必要なのは、センスでも才能でもなく、真面目さ
イメージ
まったくあたらしいものはない
ターゲットを考えることも大事だが、ターゲットから離れた想像力も必要。メッセージを伝えつつ、魅力的なものを。
イメージのアーカイブが必要。
名作の裏にヒット作あり。元ネタの存在を感じさせながら、オリジナル性を打ち出す。
伝えることだけでは足りない、何百万人が見た、だけでは足りない
デザイン
デザインとは、モノのみかたを具体的に示すということ。あたらしい服と身体の関係を提示する、あたらしい居住空間を提示する、さらに新しい人と人との繋がり方を提示するなど、題材に対してある視点を立てて、それを具体的なメディアや商品や行動というカタチに仕上げていく行為がデザイン。
優秀なデザイナーは、編集者的に思考し、行動する、その逆もしかり。
コンテンツの世界観をつくる。
編集の可能性
何を食べて、何を着て、なんの仕事をして、誰と付き合い、どこで生きるには、無限の選択肢がある。そのなかから選択して生きている、編集しながら生きている。人生そのものが編集。
より良き人を集め、人生をよりよく作品化していくことが、この大情報時代、大編集時代をたのしく生きる術。この術があれば、プライベートな題材を、グローバルに伝えられる。
仕事であれプライベートであれ、編集できるメディアは紙にとどまらず、ウェブ、イベント、空間と無限大。
新装版が出版されていた。